尾鷲市定住移住地域おこし協力隊『現地見学会』レポート
5月26日から27日の二日間にかけて、三重県尾鷲市の現地見学会が行われました。 この見学会は、定住移住地域おこし協力隊募集のために企画されました。 「尾鷲ってどんなところ?」「定住移住の地域おこし協力隊って何をするの?」 […]
5月26日から27日の二日間にかけて、三重県尾鷲市の現地見学会が行われました。
この見学会は、定住移住地域おこし協力隊募集のために企画されました。
「尾鷲ってどんなところ?」「定住移住の地域おこし協力隊って何をするの?」といった疑問、「この地域で暮らして大丈夫かな?」といった不安を、実際に尾鷲に来て解消してほしい。また、町の住民の方や、市の職員、現協力隊員の方と出会い、話すことで、仕事の雰囲気や暮らしのイメージを感じ取っていただきたい。そんな想いから、この見学会を実施しました。
見学会の様子を記事にまとめましたので、是非ご覧ください。
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この日の集合場所は、JR尾鷲駅。
全国各地から、出身も経歴も異なる8名の参加者が集まった。
「尾鷲にお越しいただきまして、ありがとうございます!遠かったでしょ?笑」出迎えたのは、尾鷲市役所で地域おこし協力隊を担当されている野田憲市さんだ。気さくな挨拶で参加者を労う。いつも明るいキャラクターで、隊員たちの様々な活動をサポートをしてくれる兄貴分だ。
参加者がそろったところで、さっそく最初の目的地へ移動する。
尾鷲駅から車でおよそ5分。一行は、『おわせ暮らしサポートセンター』に到着した。
築86年の立派な古民家は、以前は長らく空き家だった。ここを定住移住地域おこし協力隊が借り上げ、改装し、事務所として2017年3月にオープンした。空き家バンク運営などの活動拠点である他、地域行事を行う住民たちの集会所としても活用されている。まず、ここで見学会のオリエンテーションを行う。
「おわせ暮らしサポートセンターへようこそ!」と、定住移住地域おこし協力隊の木島恵子さん(写真中央)、中尾拓哉さん、早川あやさんが出迎えてくれた。
さっそく、見学会の流れや、尾鷲のこと、協力隊のこと、おわせ暮らしサポートセンターの仕事について紹介していく。
「以前は市役所の中で勤務していました。でも土日や17時以降にも対応して欲しいという利用者の声を聞いて、この事務所を開設したんです」と語る木島さん。
今年の5月をもって、地域おこし協力隊を退任され、現在はNPO法人おわせ暮らしサポートセンター代表理事として奮闘している。
これから着任する人は、二足のわらじを履いてもらうことになる。一つは、定住移住地域おこし協力隊として。もう一つは、NPO法人の一員としてだ。
協力隊員2年目の中尾さんは、「定住移住地域おこし協力隊のミッションは、尾鷲への定住移住を望む人をサポートすること。主に「空き家」「仕事」「移住体験住宅みやか」「情報発信」の4つを切り口として活動しています」と説明する。
2018年6月現在の定住移住地域おこし協力隊は4名。このメンバーと木島さんの計5名で、おわせ暮らしサポートセンターを運営している。今年4月には、NPO法人化した。
主な活動内容は、「空き家利活用事業」。
NPO法人の活動として、空き家の有効活用のため、DIYやリノベーションを行い、付加価値を付け加えて、シェアオフィスやカフェ、宿泊施設にする等、各種事業を進めている。
「着任後、まずは空き家バンク運営などを通じて、協力隊業務や地域について知ってもらいます。その上で、NPO法人の活動にも力を発揮してもられば」と中尾さんは話す。
次の目的地は、おわせ暮らしサポートセンターから徒歩3分。国の登録有形文化財に登録されている『土井見世邸』の見学を行った。
築87年にもなる見世土井家住宅は、代々の山林経営とともに、生活必需品等の販売も行っていたことから、「見世(店)」の屋号をもち、土井見世邸の名で広く親しまれている。
「こんな立派な建物が空き家なんですか?信じられない」「色々なことに有効活用できそう」と、参加者も空き家の利活用についてイメージを膨らませていた。
土井家の家族や多くの従業員たちが集い、暮らしていた当時が偲ばれる、歴史ある建物の数々。所有者の方に話を聞くと、貴重な建物の為、維持管理も大変なのだとか。「掃除しようにも、一人で雨戸を開けるだけで一時間近くかかる、というエピソードに驚きました」と木島さん。
「この建物を、地域と文化のために継承、保存して、さらに新しい価値を生み出すことで、少しでも所有者の方のチカラになれたら、と思ったんです」
一世紀近い年月を経て、ここは新たに再生されようとしている。所有者の方の想いを共有する人々が集まり、プロジェクトが動き出している。
「何とかしたい、という気持ちは、皆んな同じ。この建物が好きなんです」と語ってくれた。
市街地から車でおよそ20分。人口600人ほどの漁村である、三木浦町に到着した。
漁港からさらに歩くこと5分、とある古民家に到着した。今回の壁塗りワークショップの会場だ。
この建物は、NPO事業の一環として、1日からの短期滞在可能な第二の移住体験住宅として、旅館業法を取得し、改修も進めている。
壁塗りワークショップの講師は、柴崎潤さんだ。以前にも、他のワークショップで壁塗りを手がけていただくなど、協力隊メンバーとも交流が深い。
作業を見ていると、簡単に出来そうだと錯覚してしまうが、壁面を均一な平らに仕上げるのはとても難しい。まさに職人技だ。
さらに、コテを使って器用にパターン(模様)を描いていく。「コテの動かし方次第で、様々なパターンががつけられます」
「すごい!」「あんなに綺麗に塗れるんだ」と驚きの声があがる。参加者たちも、壁塗りは初めて挑戦する方がほとんど。職人の見事な仕事を夢中になって見つめていた。
柴崎さんに習い、壁塗りに挑戦する参加者。「うわ!難しいな」と、コテの使い方に苦戦しているようだ。
各自、自分の持ち場の壁面を決めて、壁塗りに挑戦していく。真剣な表情で作業を行う参加者たち。徐々に手つきが慣れていくのがわかる。
参加者に進捗状況を聞いてみた。
「私が下地を塗って、仕上げは相方に任せています。自然と役割分担していました」と、短時間で抜群のチームワークを見せていた。
「美しい内装の作りかたに興味があり、勉強して実践してみたかったんです。壁塗りは難しいけど、楽しいですね!」と話す参加者も。
のびやかに壁材を塗り、パターンを描いていく参加者たち。いきいきとした表情からは、自然と笑顔がこぼれていく。昨今、DIYリノベーションが注目を浴びているが、その理由は、住まいを自分たちの手で修繕し、蘇らせることの楽しさや大切さに、気づくことが出来るからかもしれない。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。後片付けをして、この日の壁塗りワークショップは終了となった。
「皆さん、予想以上に上手くて驚きました!パターンも綺麗に描いてくれて、ありがとうございます」と中尾さん。参加者たちの成果にとても満足された様子だった。
九鬼町に移動した。人口400人ほどの小さな漁村で、漁業が盛んな地区だ。「すごく綺麗な景色ですね」「こんなところでゆっくり釣りしてみたいなあ」と、九鬼港から臨む雄大な眺めに、参加者達も感嘆の声をあげていた。
1日目最後のプログラムは、参加者との懇親会。九鬼町にある『移住体験住宅「みやか」』で行われた。
ここは、遠方から訪れる移住希望者の方に、空き家や仕事を探しながら、最大3ヶ月の尾鷲暮らし体験ができる宿泊施設として運営されている。みやかを利用した2組の方が、実際に尾鷲への移住を果たしている。
この建物も長年空き家だったが、数回に渡る改修ワークショップでリノベーションされ、江戸時代に建てられた母屋は移住体験住宅に、離れは協力隊員や地域住民のイベント兼交流スペースへと生まれ変わった。
テーブルに並ぶ料理の数々。尾鷲市内の協力隊員たちや地元住民方が腕をふるった。
懇親会では、地場の魚を使った料理に舌鼓を打ちながら、仕事のことや暮らしのこと、尾鷲のことなど、それぞれ話していただいた。
多数の個性豊かな協力隊員が活躍するのも尾鷲市の大きな特徴だ。参加者にとって、尾鷲の協力隊とはどういうものなのかを知る良い機会となり、夜遅くまで話は盛り上がっていた。
見学会2日目、一行は三木里町海水浴場を訪れた。
三木里町は人口500人ほどの町で、尾鷲市で唯一、海水浴が楽しめる海岸がある地区だ。特に、海水浴場は、県内外から釣りやキャンプを楽しむ人が集まる人気スポットだ。
「都会に住んでいると、これほど海が綺麗な海岸には滅多に行けません。住民の方が羨ましいです」と参加者。しばしの間、のんびりと海岸の景色や心地よい潮風を楽しんでいた。
尾鷲で生まれ育った尾鷲市役所の西村美克さんは、「ここを、また大勢のお客さんでいっぱいにしたいんです」と参加者に想いを語ってくれた。
再び三木浦町へ。晴天に恵まれ、うっすらと汗ばむほどの陽気だ。昨日よりはっきりとした表情を見せる海と山の景色に、目を奪われる参加者たちの姿もあった。
三木浦町の移住体験住宅に移動した。
昨日作業した壁の仕上がりを見る。壁塗り初挑戦とは思えないほど、綺麗に塗られている。「おお!できてる!」「壁のパターンも上手くいってよかった」「縁の部分が難しかったなー!」と、参加者たち。自らが手がけた壁面の見つめる表情は、何だか誇らしげだ。
ここで、市役所の野田さんが、地域おこし協力隊募集の概要説明を行った。
「スキルがなくてもいい。思いだけでもいい。ミッションや、自分のやりたいことがマッチしているなら、是非応募して欲しい」と野田さん。
地域おこし協力隊は、着任後に住民票を任地に移してもらう必要がある。中には、任期を終えた後も、地域への定住を条件にする自治体もあるというが、尾鷲はどうだろう。
「尾鷲市の地域おこし協力隊には、尾鷲に住み続けてもらうことを、特に強制していません。皆さんが、任期の3年間のびのびと活動してくれたら、それでいいんです。気に入って、残ってくれたら嬉しいんやけど!笑」
現在、尾鷲市では10人の協力隊員が活動しているが、新たに法人や事業を起こして、尾鷲に関わり続ける協力隊OBもいる。ミッション以外でも、休日に自身の趣味や技能を活かして、副業にトライしてもいい。任期後の仕事や就職活動を見据えて、新しいことに挑戦してもいい。「やれい!」と背中を押してくれる環境もある。
一人で新しい土地に飛び込むのは、初めは不安かもしれない。「協力隊メンバーや、市役所職員、町の人など、困ったら誰かに相談できます。気軽に声をかけて」とのこと。頼れる仲間がいる環境は、きっと心強く感じることだろう。
続いて、一行は三木浦町のまち歩きに出かけた。
漁港を通って住宅地の奥を進むと、坂道や高台に登るための階段が随所に現れる。起伏の多い、山あいの漁村によく見られる特徴だ。
ひとしきり細い路地を上がっていくと、三木浦町が一望できる絶景が飛び込んできた。対岸にかすかに見える町や山々など、この視界一面すべてが尾鷲市だ。
「ここは三木浦町の人に教えてもらった、町一番のビュースポットなんです」
「賀田湾を擁する三木浦町は、リアス式海岸で平地が少ない。だから家と家との間隔が狭いんです」と町の特徴を説明する木島さん。町の情報に明るいのも、自ら地域住民と交流を深め、相談を受けるほどに頼られる存在になったからだ。ある意味、定住移住協力隊に一番必要なスキルかもしれない。
2日目のお昼は、三木浦町の「カフェ マドロス」でいただくことに。
今年3月に三木浦町の地域おこし協力隊に着任した三鬼早織さんが、自分たちでリノベーションして仕上げたお店だ。
マドロスという店名は、オランダ語の「水夫・船乗り」という意味。かつて、ここでマドロスという名の雑貨屋が営まれており、名前の響きが気に入って付けたのが由来なのだそう。「地元の人が、いつか帰ってくる場所の様なお店になったら嬉しいですね」と語っていた。
マドロスの料理長は、ボランティアの住民の方だ。「昨日の朝採れたばかりのアジをすぐに仕込んでるからね。サクサクで美味しいよ」出来立てを食べて欲しいと、一皿一皿丁寧に調理されている。
「愛情たっぷりですね!」「サクサクふわっふわで美味しい!」と参加者たちも舌鼓を打っていた。
マドロスは6月から本オープンを迎える。これからどんなお店になっていくのか、楽しみだ。
2日目最後のプログラムは、NPO事業で手がけている港町物件の見学だ。
「初めてこの建物を見た時、とても魅力を感じて、こんないい物件を利活用したいと思いNPOの事業の一つとして提案しました。」中尾さん。
元々左官業を営まれていた方が建てたとされる築80年ほどの物件。普通の古民家にも見えるが、驚くべきはその屋内だ。
「天井が高く開放的な空間、梁も立派で、板間や土間部分の台所、雰囲気のある階段や壁掛け時計、趣のある庭園。見れば見るほど、カフェや飲食店をやるのにピッタリだったんです」
これまで、中尾さんが中心となって港町物件の事業を進めてきたが、色々と苦労も多かったのだとか。
「大家さんとの交渉や賃貸契約に始まって、外装塗装や、玄関の修繕、トイレや水道工事に、飲食店営業許可を取るための条件確認や改修工事、建物の掃除や庭の草むしりも。笑まだまだやることは山積みです!」と笑いとばす。
さらに、ここでは「ふるもん市(骨董市)」の開催も考えているとのこと。
空き家から出てくる不要な荷物の中には、そのまま捨ててしまうにはもったいない!と思うほど、価値ある古物が眠っていることが少なくない。「古いミシン台や、年代物のレコードプレイヤー、おひつや火鉢、食器などなど、使えるものは、きちんと使ってあげたいので」と語る。
ふるもん市の収益は、空き家の改修費用や、私たちの事業の活動費に当てられる。きちんとした運営をするために、古物商販売の許可も取得した。準備は着々と進んでいる。
新しく加入する人は、将来、この建物でカフェ運営や、物販等の事業に携わることになるかもしれない。DIYやリノベーションのスキル以外にも、各種法律や、店舗運営・経営など、幅広い知識や経験を得るチャンスに繋がりそうだ。少しでも興味がある人は、ぜひ挑戦してみてほしい。
2日間に渡って行われた現地見学会も、いよいよ終了となった。
最後に、見学会の参加者の感想をご紹介したい。
「先輩隊員の方のお話を聞けたのは、とても参考になりました。懇親会で普段の様子が垣間見れたのもよかったです」
「隊員の方の話がタメになった」
「全体的に楽しく過ごさせていただきました。なにより「人」が素敵でした」
「充実した内容でした。ワークショップは共同作業で楽しかったです」
「協力隊のイメージが具体的につかめました。自分が知らない街で知らない人と繋がり、より多くの経験がしたいと思いました」
「普段の視察より、圧倒的に深い視点で見ることができたので、楽しい部分から大変な部分まで知ることができた」
「詳細な所まで踏み込んでもらえたので、自分の中で不明確な部分を理解することができた」
参加者同士が連絡先を交換する場面もあった。この見学会が、参加された方の新たな交流のきっかけになったのなら、とても嬉しい。
ここで生まれたご縁が、それぞれの未来につながっていきますように。
この記事は、当日の都合が合わず見学会に参加できなかった方々にも、尾鷲や協力隊の魅力を届けたいと思い、書かせていただきました。
尾鷲に興味が出た方は、是非尾鷲に足を運んでみてはいかかでしょうか?
(文/写真:谷津健太)